けっこう毛だらけ猫愛だらけ

いつもニャーニャー鳴いています。

元医療従事者の雑感

いままさに炎上中のこの記事。

blogos.com

いつも思うんだけれども、この手の話題が出たとき、医療関係者と一般人との反応の違いがとても明瞭である。医療に関わった事のある人であれば、患者がイノセントな子羊ではないことをよく知っている。医療に関わったことがない人は、患者はイノセントであると信じている事が多い。医師の言うことを素直に聞き、従順に言いつけを守り…と思っているが、現実はそんな人ばかりではない。そんな人ばかりではないというと言い過ぎだが、従順な人ばかりではない。そして、従順に医師に従ったから病気がすべて治るとも限らない。医療者は患者よりも医学的な知識を有しているが万能ではない。

患者はイノセントであり知識がないのだからすべては病院側が悪いと主張する人もいる。本当にそう信じているので、感覚の乖離は大きく、溝はなかなかうまらない。ブコメにも「患者をコントロールできないのは医師の責任」という意見がありびっくりした。病院から脱走するような患者もいるのに、なんでもかんでも医師におっかぶせすぎである。他人をコントロールするなんて恐ろしいことだとこの人は思わないのだろうか。

 

 患者さんという生き物はじつに身勝手な生き物で、基本的にこちらの指導は聞かないものである。「大変なことになりますよ」と伝えても自分だけは大丈夫だろうと思って平気で酒をガバガバ飲んでいたりするのはよくある話で、医者とかコメディカルはいつもこういう人を相手にしているから、だんだんそれに感覚が慣れてきて「指導を守らないのであれば問題が起きても知りませんよ、こちらはリスクをちゃんと伝えましたからね…」と事務的に事柄を処理するようになる。説明してもその後にトラブルが起きるのはよくある話。患者さんに「説明しましたよね?」と言っても「そんな事を聞いた覚えは無い」と言う。自分に都合の悪いことは記憶からぽっかりと消えている。こういう患者さんの言動にストレスを溜め込んだ医療者が暴飲暴食に走ったりしているのもあるあるな話だったりする。

 

 私は長谷川氏が想定している人物像がかなりくっきりわかったが、残念なことにそういう人物は、誰に何を言われようとも生活を改めようとはしない。「殺せ」というあまりに強い語調をもってしても、彼らのうちどれほどの人間が真摯にそれを受け止めるかは微妙なところである。本人自身にショッキングな出来事が起こらないかぎり、ヘラヘラしてほとんど悔い改めることはない。糖尿病が進行して四肢全てを切断することになった人が、自分で食事を摂れなくなった結果、初めて血糖値が下がった、というブラックジョークみたいな話もある。 

 

自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!

まあ一部に真実が含まれていることも忘れてはいけないんだがね。生活習慣病ってのは自己管理できない人がなる病気。透析の後にご褒美とかいいながらドーナツ5個一気に食ってるの見てゲンナリしたことがある。

2016/09/20 19:05

b.hatena.ne.jp

 

生活習慣病に限らず多くの病気で見られることなんだけれども、人間の体というのはじつに理不尽に出来ていて、どれほどストイックに節制していても病に倒れる人がいる一方、だらしない生活を送っていてもまったく病に無縁な人もいる。

 糖尿病になってから、糖尿病性腎症になるまではかなり長い道のりがあるし、人工透析に至るまでに出来ることはたくさんある。だが、我慢がどうにも出来ないという人もやっぱりいる。こういう人は病院でどれだけ脅かされても生活を改めることができない。悲しいけれど、どうしても生活を見直せないという人が一定数、存在する。

 

自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!

長谷川氏の議論はいつも単純で感情的。だけど人工透析を含む社会保障費をどう削減するかは、日本全体が最も優先的に取り組むべき社会問題。国民に健康を強いることが権利や自由の侵害なら、医療費削減しか道はない。

2016/09/20 20:12

b.hatena.ne.jp

長谷川氏の主張は、急進的すぎだなぁと思うけれど、このコメントのように膨れ上がる国民医療費をどうすべきかはかなり差し迫った問題だ。

大病院の多くが経営難になっているいま、採算の見込みのない人口の少ない都市からは少しずつ病院が消えて行くだろうし、病院が少なくなれば医療難民が激増する。

日本は医療に関して大変に恵まれた国だが、世界を見渡せば病気になったけれど病院で見てもらえるのは3週間後みたいな国はザラにあるので、じょじょにこういう状態へシフトせざるをえないのではないかと思う。

 医療費の削減というのはなかなか難しいものだが、余裕がなくなるにつれて否応にも削減をせざるをえない状況に追い込まれて行くのではないか。今はまだ、不摂生による人工透析でも患者が救済されるシステムが機能しているが、いくら増税しても医療費の激増に追いつかない時が必ず来る。それを危惧している。

日本の医療は国民皆保険制度を保持しているが、皆保険制度が整備されたのは戦後の話だ。それまでの日本では、娘を遊郭へ売ったりして医療費を捻出せねばならない層があることが問題になっていた。医療費が払えなくて病院にかかれないばかりではない。前にも書いたが、患者はイノセントではないので、難癖をつけて治療代を踏み倒したり、患者が夜逃げしていたという話が実際にあった。皆保険制度や高額医療負担制度というのは、じつは医療機関を守るための制度でもある。皆保険制度の破綻によって医者へかかれない層が増えるということは、同時にこのようなトラブルを招いてしまうことが予測される。

zasshi.news.yahoo.co.jp

 

 

 

おわり