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がん治療に関する雑感(長文)


togetter.com

 こんなまとめがあったので、自分なりの雑感を書いてみたいと思う。

 ちなみに、これまでも代替療法や民間療法などについてはブログ記事を書いていて、ご興味のあられる方はそちらもお読みください。 

nenesan0102.hatenablog.com

nenesan0102.hatenablog.com

 

  昨年、2018年に、国民的漫画家であるさくらももこ氏が亡くなった。がんによる死、しかも53歳という若さでの死であったため、多くの人が衝撃を受けた。

togetterのまとめを読むかぎり、さくらさんは、もともと乳がんで標準医療を受けていた。それで一度は治っているが、がんがまた再発したという状況だったようだ。

さくらさんが民間療法をしていたことをなげく声もあるが、民間療法を選択したのには理由があったとも言える。

togetter.com

 さくらももこの件のtogetterまとめには、このようなツイートもあった。

 「けっこう元気!!」なのは、それはあなたの場合であって、さくらさんはそうじゃなかったんでしょう。二度と受けたくないと思うくらいには苦しかったのでしょう。

人の体というのは個人差が大きくある。だから安易に「私は平気だった。だからあなたも」というのは通用しない。これは標準医療にも民間療法にも言えることで、Aさんに通用したものがBさんに通用するとは限らないのが、医療のとても難しいところである。

 

重篤な副作用

いま、私の手元には『今日の治療薬』という、医師の机にかならず鎮座ましましている分厚い薬辞典がある。この本で、けっこう代表的な抗がん剤である「5-FU(フルオロウラシル)」をひいてみよう。この「5-FU」は、かなり多岐に用いられる抗がん剤で、消化器系のがん全般、乳がん、肺がん、子宮けいがんなどの治療に使われる。

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『今日の治療薬2018』より

 「5-FU」の「副作用」の欄にはこんな記述がある。副作用は多いので、とりわけ重篤なものを書き出してみよう「骨髄抑制、うっ血性心不全心筋梗塞、急性腎障害、白質脳症、肝不全」。命に関わる副作用が多数ある。

 腎障害もそれ自体が重篤な場合は、そこから人工透析になったりの可能性もある。心不全からダメージが腎臓に行く場合もある。骨髄抑制というのは、骨髄の機能がおかされ、それによって血液中の血漿成分が作られなくなり、ようするに血液そのものが劣化する状態となる。だからこの状態になると全身がものすごくしんどくなる。血漿成分である血小板が減少するから鼻血が出てとまらなくなったり、歯茎から出血がとまらないとか、そのような副作用がおきる。

 

 じつは私の知人が、消化器系のがんで、この「5-FU」による抗がん剤治療を受けた。消化器粘膜を攻撃する性質のある薬なので、口から肛門までびっしりと潰瘍ができ痛くて痛くてたまらなかったそうだ。さらに言うと腕にシミのようなものがぽつぽつとあるので、これはなに?と聞いたら、看護師さんの手違いで抗がん剤が点滴から落ちたものが火傷になり、それが数ヶ月経っても皮膚に残っていた。そのほか、爪が一時的に生えなくなり、すべての爪が伸びなくなった。

 しかしこの人の場合、それでも副作用はごくごく少なかった方だ。それはただの偶然であって、重篤な副作用があった可能性もあったわけである。

  私は、抗がん剤の、人体へのあまりの侵襲性の高さはどうなのかと思わざるをえない。

  2018年に本庶先生がノーベル賞を受けたがん治療薬「オプジーボ(二ボルマブ)」でも、副作用による死者が出ている。ここまでくるとちょっと治療自体がロシアン・ルーレットめいた感じすらある。脳機能障害を起こした場合、その後、脳機能がどこまで復活するのかはちょっとこの記事からはわからない。だが投薬の影響がきわめて深刻なのはあきらかだろう。

medical.jiji.com

 

■莫大な治療費用

 2014年に「オプジーボ」が登場したとき、その薬価はかなり高かった。体重60kgの人への投与の場合、月に300万、年間でおよそ3800万円がかかったという。 

www.ganchiryohi.com

 がん闘病を公表しているある写真家さんが、ブログで「僕の今現在のがん治療費用は、年間でだいたい6600万円ほどになります」と書いていた(※高額療養費制度があるので、本人負担額=6600万円ではない)。

  保険治療適用内であれば、高額療養費制度という救済措置が使えるが、最新薬を使った自由診療の場合、この高額療養費制度は対象にならない。だから中には家を売って治療費を捻出するという人もいる。

 

 高い薬というのは存在するもので、つい先日発表された難病の再新薬「ゾルゲンスマ」の一回あたりの薬価は2億を超えるものだった。国内でもっとも高い治療薬は、白血病治療薬「キムリア」で、一回の費用が3350万円である。いかに最新の医療費がぶっとんで高いものかというのがよくわかる。

  病気になると、ただでさえ体がつらくなって働くのが困難になる。おまけに医療費が、まるで悪魔がやってきてお金をもぎとっていくかのように吹っ飛んで行く。

 

■いかに生きるか 

 ここまで書いてきて、読んでいる人はどう思うのかわからないが、私自身はがんの標準医療を否定するという立場ではない。ただ、標準医療が体に合わない人が必ずいる。そういう人たちをどのように扱うか。この問題にまだ、病院や医師側は答えを出す事ができないでいる。身もふたもない言い方をすれば、標準治療も代替医療も、どちらも生存者バイアスなのである。「キノコが効いた」というのもあくまでもその人の場合に限っての話であるが、救われたい一心で代替医療を選択する人ももちろんいる。

標準医療というのは、膨大な蓄積データのうち、エビデンスがしっかりあるものを専門家が審議して定められた医療である。だが、だからといってそれが効くとは限らないのだ。ここが人間の体の悩ましいところである。標準医療で効果がなかった人や、あまりにも苦しい思いをした人が、いくらエビデンスがあると言ってもそこから離れてしまうのは無理もない。

 

  いまは、遺伝子解析がものすごいスピードで進んでいるから、遺伝子を解析して、それに合った副作用の少ない抗がん剤投与なども行われているが、抗がん剤治療を行って副作用がどのくらい出るか、どの程度の重篤な副作用が出るかなどは、すべてやってみなければわからない賭けみたいな部分があるのだ。

  私は、人々を標準医療から遠ざけるものは、肉体や精神へのひどい侵襲性と、成功率の低さ、それから高い医療費だと思っている。

 

  以前、がん治療に関して、このような文をどこかで読んだことがある。

Aさんはがんになり治療を行った。保険が適用されない最新の治療薬を使うため、長年住み慣れた家を売った。

Aさんのがんは治った。だが、Aさんに残されたのは、治療による莫大な借金と、副作用で弱り果てた体だった。Aさんは働けなくなり、住む家を失って小さなアパートで寝たきりになって生活するようになった。

それからしばらくしてAさんにがんが再発した。今度はもう治療するお金もなかった。

この文を読んだのはたしかまだ10代のときで、この人は一体なんのために生きるのかなとひどく疑問を感じてしまったことがある。Aさんはこの状態で幸せなのだろうか。

 

 

 いま、私の手元に『日本医療史』という本がある。この本の中に、日本の中世の死生観が取り上げられていて、それが興味深いのでここで引用したい。

中世の人々に希求された「頓死往生」「極楽往生」も、その前提には「臨場正念」という心安らかに念仏できる命終のときを得ることが不可欠とされる。

苦しむことのない安らかな死、それは仏への信仰によって支えられる死であったが、一方、いわゆる天寿をまっとうしたと言われるような老衰死も古来から理想とされる死となっていた。   

 

 「頓死往生」というのはぽっくり死ぬこと、「臨終正念」というのは、臨終のさいに念仏をとなえられるくらいのおだやかさで死にたいという願いである。つまり、苦しみぬいてうめきながら目をひんむいて死ぬというのはやっぱり嫌なわけだ。これは鎌倉時代に書かれた日記に登場する記述だ(『平戸記』寛元2年/1244年)。ああ、中世の人々もそのような感覚だったのだと私は妙に納得した。

 私自身、もともとから安楽死推進派ではあるが、手のほどこしようのないがんについては、安楽死などを認めてほしいという思いを持っている。

 

 

 ところで、民間療法に関して言うと、けっこうな額がアメリカにおいて支出されている。古いが、1993年の調査データがある。

アメリカにおける医療費支出額のうち25%が民間療法に費やされており、患者のうち約70%はなんらかの民間療法にかかり、その支出総額は137億ドルにのぼる。(民間療法を選択するのはおもに白人のエリート層)

ちなみに、アメリカでは標準医療に代替療法を取り入れるというのはけっこう行われているこころみで、これを「統合医療」(Integrative medicine)という。アメリカにはこれを研究するための「国立補完代替医療センター(NCCAM)」がある(1998年設立)。

  これは2010年のデータであるが、アメリカの病院協会に加盟する大病院のうち、42%の病院で統合医療が行われている。ハーバード大スタンフォード大をはじめとする有名大学による「統合医療連合」が設立され、今では57の大学が加盟して研究を行っている。

(※データが古いので、今現在は変化している可能性があるのですみません)

 

ja.wikipedia.org

 

 

  私は個人的にだが、標準医療側に立つ医師が、民間療法を選択した患者を「偽情報にだまされて…。情弱はこれだから」みたいに小馬鹿にする感じがどうにも好きではない。いや、あんたらの治療が苦しすぎてもう無理になったんだって、そこはちゃんと認めなよとも思う。標準医療に不信感を抱いている人は意外と多くいる。それがなぜなのか。なぜ患者さんが民間療法を選択したのか。きちんとその背景について考えるべきだと思う。

 

 眠れないので適当に書いてしまった。構成がうまくないのはお許しください。

 

 

 

おわり

 

■参考文献

 『今日の治療薬』南江堂/2018

 『日本医療史』新村拓/吉川弘文館/2006年

 『病気がイヤがる暮らし方』丁宗鐵/春秋社/2015年

 ※アメリカの医療費のデータは、丁先生の本の記載よりお借りしました。